ヒマラヤ・フィールド報告-セティ川洪水とマディ川氷河湖決壊洪水の原因-
ランドサット画像を見て、マディ川上流域に氷河湖があることが分かったので、Sikles村から調査7日目に地図上のGapcheの地点にある岩屑に覆われた(D型)氷河・湖に到達した。氷河・湖を眺める右岸モレーン(湖面からの比高は約50m)の位置は、GPSによれば、北緯28度26分49.09、東経84度06分48.39、高度2557m。これまでネパール・ヒマラヤで知られている最低位置の氷河末端は3273m(ICIMODのSamjwal Bajracharya氏談)であるので、(Gapche)氷河・氷河湖の高度約2500mは、最も低いことになる。
(Gapche)氷河の特徴は、上流部のいわゆる涵養域がなく、アンナプルナⅡとラムジュン・ヒマールの峰々に囲まれた高度約7000mの氷河の崩壊が富士山ほどの比高のある大岸壁と峡谷を通じて、氷河の上部にデブリとして堆積し、氷河を涵養していることである。地元の村民によれば、15年前には氷河湖はなく2003年と2005年および2009年に氷河湖の決壊洪水(GLOF)が発生した、と言っていることから考えると、2000年前後から(Gapche)氷河の末端部が融解し、氷河湖が形成されたこと、また高度7000m周辺の氷河の大崩壊が起これば、直接氷河湖に達し、大(津)波を発生させ、モレーンを破壊し、GLOFをひきおこす要因になるであろうことは容易に推察できる。クンブ地域のラグモチェ(ディグ)GLOFとも共通する要因がある、と解釈できる。
温暖化の進行とともに氷河や岩壁の崩壊が進む可能性は大いにあるので、このようなGLOFは多発するのではないか、と危惧される。この種のGLOF発生機構は、言ってみれば、いわば“水鉄砲”のようなもので、高度7000m周辺の氷河や岩壁の大崩壊によるエネルギーで、氷河湖水が鉄砲水のように押しだされて洪水を発生させるイメージといえよう。(Gapche)氷河・湖地域を離れた調査8日目に、アンナプルナⅡとラムジュン・ヒマールの峰々に囲まれた高度約7000mの氷河が崩壊した雪崩を見ることができた。