A. 暖地積雪
  ら旋をえがきながら、つぎつぎと舞いおちてくる六華の雪をながめていると、いつのまにか自分の体が大空にひきあげられるように感じる。
「雪は天から送られた手紙7)」といったのは中谷宇吉郎氏だ。彼はまず、自然の雪の結晶形を分類し、実験によってほとんどの結晶形をつくりだし、1つひとつの雪の結晶ができるときの気温と水蒸気量を明らかにした。たとえば、よくみられる樹枝状や六角板状の結晶は-15℃前後の気温条件で形成されるが、樹枝状のほうが水蒸気の供給量がおおいときの結晶形である。また、中央部の六角板結晶のまわりに樹枝状結晶が成長していることもある。この場合は、中心にある六角板結晶が上空の水蒸気のすくない状態の気層でまず形成され、六角板結晶が落下してくるうちに、地表に近い水蒸気を多量に含んだ気層にはいり、六角板結晶のまわりに樹枝状結晶が成長したことを示す。つまり、結晶形をみるとその時の気象状態を推定できるので、中谷宇吉郎氏の「雪の手紙」となる。
琵琶湖の雪には樹枝状結晶がおおい。樹枝状結晶といっても、たくさんの結晶がより集まったボタン雪が一般的だ。そして、樹枝状結晶の表面を虫メガネなどでよくみると、小さなこぶがたくさんついている。雲は零度以下の気温のときにも過冷却状態の小さな水滴となる場合がおおいので、この小さなこぶは、上空でできた雪がそのような状態の雲の中を落下するときに、過冷却水滴が雪の結晶面に凍りついたものだ。
琵琶湖集水域南部でよく経験するように、地表付近の気温が零度以上のときにふる雪は、すでにとけかけていて、教科書などにみられる典型的な樹枝状結晶のようなとげとげしさはなく、丸みをおびる。琵琶湖の雪は、北海道などの乾き雪と異なり、冬でもぬれ雪なので、いわば「水雪」の感じがする。
北海道の雪のように、冬のほとんどの期間、積雪の温度(雪温)が零度以下で、水をふくまない乾いた積雪にたいして、琵琶湖の積雪は冬でも雪温が零度の場合がおおく、水をふくんで重い。このような積雪を、中島暢太郎氏と渡辺興亜氏はそれぞれ「暖地性積雪」、「暖候地積雪」とよんだ。これが、この報告でいう暖地積雪である。とくに琵琶湖集水域の南部では、冬でも降雪・降水・融解・流出の諸現象がひんぱんにおこる。そのような積雪現象の変化のはげしい地域を、樋口敬二氏は、「ときどき雪国」注2)と称した。新幹線や名神高速自動車道などで間欠的におこる交通障害は、典型的な「ときどき雪国」現象である。その時の降雪は「ゲリラ雪」とも呼ばれる。(図4)

図4  「ゲリラ(吹)雪に注意」の看板がかかる名神高速道路(彦根付近)

  北海道の乾いた積雪がちょっとした風でも舞いあがりやすいのと対照的に、琵琶湖の暖地積雪は人や家などに重くまとわりつくのできらわれるが、降雪直後の陽ざしをあびた寒ツバキの赤い花から融雪水がこぼれおちるのも、暖地積雪ならではの風情といえる。