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ネパール2014春調査報告 8 -ICIMOD会議-

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写真1 会議終了後のスナップ(中央の白いズボンの人がコンビーナーのサムジワール・バジラチャリャ氏
昨日カトマンズでのICIMODの下記会議を終え(写真1)、ポカラに戻ってきました。5月13日~16日までの4日間の会議中は午前9時~午後5時までICIMODのカンチェンジュンガ会議室で缶詰状態になり、100名ほどの出席者がら50ほどの報告を聞く、かなり忙しい日々を過ごしました。


Second International Conference on
Cryosphere of the Hindu Kush Himalaya: State of the Knowledge
And Hindu Kush Himalayan Cryosphere Data Sharing Policy Workshop
http://www.myrepublica.com/portal/index.php?action=news_details&news_id=74679

全体的な印象
会議の第1印象は衛星画像解析やモデリングなどの研究報告が多く、現地調査の研究成果が少なかったことです。広域的なデータをまとめるには前者の研究は欠かせませんが、グランド・トゥルースとしての後者の研究がないと、前者は砂上の楼閣になってしまう可能性があります。具体的には、氷河(インベントリー・流動・質量収支含む)や岩石氷河、凍土、氷河湖決壊洪水、水文循環に関する前者の研究でも、詳細な時空間的な変化をまとめているのは良いのですが、例えばツラギ氷河の流動にしても、数年前から氷河末端が氷河湖の底に座礁し、末端が静止しているのにもかかわらず、氷河流動を報告している(発表資料)ので、大いに気になりました。前者の研究が多くなっていることを考えると、後者の研究の重要性とともに、今回の会議の基本的な共通テーマが「データ・シアリング」であるのですから、両者の協力・情報交換がますます必要になってくることでしょう。

発表資料
Umesh Haritashya (Univ. of Dayton)
The Global Land Ice Measurement from space Project (GLIMS): Current Status of the Database; and SERVIR Himalaya: Update on Growth of Glacial Lakes and Unstable Landscape.

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写真2 リジャン・カヤスタ先生と学生のソナム・プティさん
現地調査
そんな中で、友人であるカトマンズ大学のリジャン・カヤスタ教室の学生たち(写真2、3)が、われわれの仲間が1970年代に調査していたダウラギリ峰北部にあるリッカサンバ氷河や1980年代のランタン地域にあるヤラ氷河の現地調査を続けている報告(発表資料)を聞き、なつかしいと同時に、大いに頼もしく感じました。彼らは近々それらの氷河の1970年代・19809年代からの変化をまとめた報告書を出版する、とのことです。大いに期待したいと思います。彼らの話にもうひとつつけ加えたいのは、学生のなかに、クンブ地域のクムジュン村出身のソナム・プティさんがいることです。ハクパ・ギャルブさんが言うには、「彼女はシェルパの氷河研究者第1号」とのことですが、ハクパさんこそ、1970年代にわれわれの研究を支えてくれた、その第1号であったのではないか、とぼくは思っています。

発表資料
Rijan Bhakta Kayastha (Kathmandu Univ.) Glaciological Research in Lantang and Hidden Valleys, Nepal.

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写真3 雪渓化したクンブ地域のギャジョ氷河(上:1970年8月、下:2009年5月)
ネパールの氷河台帳
今回の会議でSamjwal Bajracharya(ICIMOD)が報告した「Decadal glacier change in Nepal Himalaya 」は注目を集めました(資料1)。これはランドサット衛星画像を解析したネパールの3800ほどの氷河台帳で、各流域ごとの氷河分布が明らかにされています。例えば、ネパールの氷河の80%は標高4500m~6000mに分布している(写真4)事が報告されました。これらは低位置氷河で、ぼくが今回の会議でも発表したクンブ地域の低位置氷河であるギャジョ氷河は、温暖化の影響をうけ、急速に融解・縮小したため、氷河から雪渓に変化してしまいました(写真3、資料2)。地球温暖化が進めば、高位置氷河も解けるのにくわえて、ネパール氷河の少なくとも80%の低位置氷河が消滅してしまうことを示しています。このことは、ネパールだけでなく、下流域全体の水文環境に大きな影響をあたえることでしょう。今回の会議の最終日には、ICIMODが精力的にまとめたネパールの氷河台帳が参加者に配布されました(資料1)。ただ、彼らの氷河台帳では高度3000m以上の氷河を記載しているので、ぼくが調査したアンナプルナ南面の標高2500mのガプチェ氷河は見逃されています。ガプチェ氷河は小さいとはいえ、雪崩涵養型で、最近末端が融けてできた氷河湖に大規模雪崩が直接落下すると、鉄砲水のように氷河湖決壊洪水が発生するので、小さな氷湖ですが、要注意です(資料3)。
資料1
Glacier Status in Nepal and Decadal Change from 1980 to 2010 Based on Landsat Data (2014)
Bajracharya, S. R.; Maharjan, S. B.; Shrestha, F.; Bajracharya, O. R.; Baidya, S.
http://lib.icimod.org/record/29591
資料2
ヒマラヤ寒冷圏自然現象群集の将来像―生態的氷河学と自然史学の視点からー. 1997, 地学雑誌, 106, 2, 280-285.
資料3
2012年ヒマラヤ・フィールド報告
−セティ川洪水とマディ川氷河湖決壊洪水の原因−
雪氷研究大会(2012・福山)要旨

氷河湖決壊洪水
すでにお伝えしましたように、ぼくは「氷河湖決壊洪水問題を報告(写真5、発表資料)し、小さい氷河湖が危険で、ツラギ氷河湖のような大きな氷河湖は比較的安全であることから、大きな氷河湖であるイムジャ氷河湖でUNDPなどが人工的な水路建設のプロジェクトを進めているのは再検討した方が良い」と発表したところ、そのプロジェクトの関係者から反論を受けましたが、よくよく聞いてみると、イムジャ氷河湖の水路建設のプロジェクトは最初に予算ありきのプロジェクトで、日本でもよく問題のなるような政治的判断でプロジェクトを決定したとのことでした。しかし、今回指摘した危険な小さな氷河湖であるホング・コーラ沿いのチャムラン峰周辺の小さな氷河湖の現地調査をICIMODがさっそくとりあげてくれ、今年中には現地調査を実施するとのことで、心強く思ったしだいです。

発表資料
Hiroji Fushimi (JSSI) Why is a large glacial lake safe against GLOF (Glacial Lake Outburst Flood) ?

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写真5 氷河湖決壊洪水問題のポスター
PS
今回の会議に参加している100名ほどの関係者の旅費や滞在費を賄うのは大変と思われるが、アメリカやノルウェー大使館などが後援しているそうです。日本も、上記のような問題のある援助をするよりも、このような事業への積極的な支援をして欲しい、と感じました。