ご挨拶
ヒマラヤの氷河をはじめて見てから50年ほどがたちました。ほとんどの氷河が著しく溶け、縮小しています。なかには消えてしまった小さな氷河もあります。ネパール・ヒマラヤの氷河をはじめ、人間も、いろいろな生物も、いわゆる温暖化の影響を受けているのです。このことはネパールやブータンのみならずヒマラヤ周辺の国々も同様で、遠くはヒマラヤを起源とする南アジアの大河、インダス・ガンジス・メコン・長江・黄河などの流域全域に影響を与えています。例えば、黄河中流域では“断流” と言われ、毎年半年以上も水がない状態になるとのことです。
南アジアの大河川河口域の大都市周辺は、21世紀後半には世界で最も人口増加が著しい地域になり、ヒマラヤの氷河減少で河川水位が低下するのにくわえて、海水位は逆に上昇するため、河口域の河川水に海水が流入します。その際、海水は地下水にも潜り込み、したがって河川水も地下水も塩水化するため、増加する人口が必要とする淡水の水資源が減少してしまいます。そこで、淡水を求める環境難民が大量に発生することが危惧されているのです。南アジアの水資源の重要な源はヒマラヤの氷河ですので、ここでは「氷河へのお誘い」と題して、ヒマラヤの氷河の動向を調査しながら、ヒマラヤ周辺だけでなく、南アジア全体の環境変動を見つめていきたい。そのような視点が「ヒマラヤ学?」への出発点になるのではないか、と思っています。
伏見碩二のプロファイル
私は1963年11月から1年半の北極海海洋調査をしたアルバイトを手始めに、その軍資金で、アラスカ→北極海漂流→ヨーロッパ自転車旅行→西アジア→ネパールを廻って、1966年3月までの2年4カ月で東回りに地球を一周しました。ネパールに初めて入ったのは1965年10月で、友人たちの地質氷河調査隊に合流するため、ひとりで寝具を担ぎ、ポカラからダウラギリ峰近くのチューレン・ヒマールまで村人の助けを借りて10日間ほど歩きました。その時のヒマラヤの山々と村人との心温まる経験が病みつきになって、それ以来30回ほどヒマラヤ通いをするようになりました。最近では年に1~2回、世界最高の山岳地域に鎮座する神々の座を拝みながら、50年間ほどのヒマラヤの環境変化を見つめています。(詳しくは、経歴をご覧ください。)
伏見碩二(フシミヒロジ) 生年月日(年齢) 1941年7月21日生(80歳) 1969年3月 北海道大学理学部地質学鉱物学科卒業 1971年3月 北海道大学大学院理学研究科(地質鉱物学専攻)修士課程修了 1976年2月
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