1.モンゴルのフブスグル湖-水位変動の原因と対策-

  琵琶湖水位は,9月には-1mちかくまで低下していたが,その後の雨でかなりの回復をみせた.最近の琵琶湖はといえば,水位低下が大きな問題である.貴重な水資源のみならず,生態系にも影響するからである.ところが,モンゴルのフブスグル湖(写真1)では,水位上昇が問題なのである.この20年ほどで60cm,上昇したという.森林や牧草地,はては湖岸の町の水没が問題になっている(写真2).そこで,私たちは「フブスグル湖の水位上昇」の原因として,地球温暖化で永久凍土が融け,水量が増えたとの仮説を考え,これまでに3年間の調査を行なってきた.広大なカラマツ林に囲まれたフブスグル湖はバイカル湖の集水域に位置し,面積が琵琶湖の4倍もある自然豊かな古代湖である.

さて,仮説によって見通しをつけると,調査の方向がはっきりする.そこで,情報が乏しかった地温を集中的に調査した.まず,カラマツの森林地域では地下1.5m付近で地温が0℃になるので,凍土層が保存されていることが分った.ところが,牧草地や山火事で焼けた林では地温が高く,凍土層の融解が地下5m付近まで進んでいる.太陽の日射が直接地面を温めるようになるからである.山火事もまた,人為的な要因が大きいそうだ.

さらにフィールドワークでは,思いがけない発見があるものである.フブスグル湖南端部が川に変わるところの地形を調査し,びっくりした.フブスグル湖から流れでる川が自然のダムに堰きとめられているのである.支流の川から運ばれてくる膨大な砂礫が自然のダムを作り,水位上昇をひきおこしている.

原因が分ると,対策がはっきりする.まず,短期的には,自然のダムを取り除くことである.私たちの見積もりでは,1千トン程度の砂礫を浚渫すれば水位を30cm下げることができる.10トン車100台分の工事である.次の中期策としては,人為的な土地利用の改善で,牧畜や山火事による森林破壊をくいとめることである.以上は,地元の人たちの課題だが,長期的な地球温暖化対策は,全世界的な規模で,特に先進国が中心になって行なう必要がある.以上のような湖の水位変動の原因と対策は琵琶湖にとっても重要な課題であるから,年度末にはウランバートルで開かれる地元研究者との検討会を行い,美しい自然の残る古代湖保全に向けて今後とも努力していきたいと考えている.

カラマツ林と放牧地に囲まれたフブスグル湖

水位上昇で水没するフブスグル湖岸の森林