9.内陸アジア変動帯

Picture新生代後期に始まる汎地球的な地殻変動の結果を生じた地形変化と氷河時代に代表される気候変化は現在の地球の姿に大きな影響を与えている。地形変化と気候変化がすべての生物にとっての環境を形成し、生物と環境との相互作用が自然史を作る。

  自然史から見たヒマラヤ地域および内陸アジアの高山地域を、新生代後期から現在までの地形変化と気候変化とが地球上で最も大きかった地域とし、この諸地域を内陸アジア変動帯と呼んでおきたい。
地形変化と気候変化とを引き起こす基本的な条件は、地質学的な営力である。長い時代にわたって働く地質学的営力が地形を変化させ、そして汎地球的規模の気候変動とからみ合いつつ、そこに新たなる地域性をもった気候条件が作り出され、そして内陸アジア変動帯特有の自然史を作り出していく。地形変化と気候変化と生物との相互作用を時間軸と空間軸に配置し、そこに流れる歴史を編んでいくことが、ヒマラヤの自然史の課題である。
この内陸アジア変動帯には、次に記すような大規模な山脈群が含まれる(図1)。  南部地域-この地域には従来のヒマラヤ山脈やカラコルム山脈があり、この地域の南面の低地では東部が熱帯多雨林、西部がステップとなっている。
中央部地域-この地域には湖の分布するチベット高原、コンロン山脈などがあり、乾燥した高原となっている。
北部地域-この地域には天山山脈などがあり、タリム盆地、ツァイダム盆地などの砂漠がある。
西部地域-この地域にはヒンズー・クシュ山脈、スライマン山脈などとともに中近東のステップ地域が広がる。
東部地域-この地域にはチーリェン山脈をはじめ横河、揚子江、メコン川やサルウィン川の源流域に当たる山脈群などがある。