2017年ネパール通信11

バルンGLOFについての緊急報告2

新たな疑問

2017年ネパール通信8*で、東ネパール・ヒマラヤのマカルー峰(8463m)南のバルン谷で4月に発生したGLOF(氷河湖決壊洪水)は、写真1のSAR画像に現れているバルン氷河下流部の末端モレーンから続く白色の流水跡と解釈した特徴的な流紋状のパターン(写真1の黄色点線内の1の地域)から、今回の災害はGLOFではなく、バルン氷河上の池などの水が越流してきた、いわば鉄砲水のような洪水現象(flash flood)であると報告*しました。

*2017年ネパール通信8
バルンGLOFについての緊急報告
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2017/04/glof.html

写真1 バルン氷河からFlash Floodが発生した考えたSAR画像。白色の流水跡のような特徴が見られる。

ところが、矢吹さんから5月12日に送られてきたSentinel2画像には、バルン氷河下流部の末端モレーンから続く白色の流水跡(flash flood)は認められない(写真2)ので、矢吹さんおよびアメリカ出張中のリジャンさんに次のようなメイルを送りました。

Yabuki Sama,
“Thanks of Millions” for sending us the recent Sentinel2 Image.
Though we have concluded that the recent flood in that area was not a GLOF and just a flash flood caused by draining of one or many supra-glacier ponds on the Barun Glacier according to the SAR images by Sentinel 1 of  25  April 2017 (Attached photo 1;写真1), the recent Sentinel2 Image has given us new information that there is no evidence of the flash flood from the Barun Glacier shown No.1 area with yellow dotted line, but another evidence of flood occurred in the east of the Lower Barun Glacier shown No.2 area with yellow dotted line (Attached photo 2;写真2). Please send your comments on the above view on the recent Barun flood.
“Good Luck and Namaskar” to you all from Hiroji Fushimi
PS
I think we need more clear satellite image of the No.2 area in the east of the Lower Barun Glacier, so I am very much appreciated if you could send us  the image in near future.
Cc. Rijan Sama

矢吹さんから送られてきたSentinel2画像の1の地域西側には、ホング川流域で観察した大規模な岩石氷河(写真2の右下)と同様に、谷の中央部まで扇状に張り出す岩石氷河が分布している(白い点線)が、写真1で当初考えた(flash flood)がバルン氷河末端の北から南へと大規模なこの岩石氷河地帯を乗り越えて流下する可能性は極めて少ないこと、また写真1のSAR画像を見ると、同様な白い流紋状のパターンは1の地域からさらに南西方向および画像の上部右側にも顕著に現れていることなどを、そもそも検討すべきであったと反省している。それにしても、SAR画像に現れる写真1の「白色の流水跡と解釈した特徴的な流紋状のパターン」に見える部分は何を示しているのであろうか。「2017年ネパール通信8」では、SAR画像の「白色の流水跡と解釈した特徴的な流紋状のパターン」に惑わされてしまったが、その解析にあたっては注意すべき点のひとつだと思われる。

また、上記のメイルで、写真2の中央部付近で、 Lower Barun Glacierの東側の地域に見られる岩屑が斜面を流下する崖錐状の地形(2地域の黄色の破線内の矢印)はかつて洪水が起こったことを示しているのではないか、と指摘しておきました。そのことが、次に述べるように、矢吹さんのその後の画像解析および福井さんの報告とも関連性がでてきました。

写真2  矢吹さんから送られたSentinel2画像を改変する。当初判断した1地域ではなく、2地域にGLOFが起こったと解釈した。1地域内には白い破線で示す岩石氷河が分布する。(写真4参照)

 

写真3 矢吹さんから送られた「Lower Barun氷河湖の下流側の北側の氷河の隣に見えている氷河湖がかなり怪しいです」とのことを示す画像。

すると、矢吹さんから、「Google Earthで見れるものを作成しました、Lower Barun氷河湖の下流側の北側の氷河の隣に見えている氷河湖がかなり怪しいです 。地形と重ね合わせるとよくわかります」 (写真3)、とのメイルが届き、引き続き、グーグル・アース画像(写真4)が送られてきたのですが、画像取得日が(2015/5/13)になっているので、その画像取得日以前に、GLOFなどの洪水が起こったことを示しているのではないでしょうか。

写真4 矢吹さんが整理した画像取得日が(2015/5/13)を示すグーグル・アース画像。写真3の赤印円内の地形がよく分かる。また写真2の1地域内に分布する岩石氷河が左側に見える。

さて、 冒頭で述べた2017年ネパール通信8には、「中部大学の福井さんなどにも情報提供を呼びかけていたそうだ」と述べましたが、アメリカのコロラド大学に2ヶ月間出張中のリジャンさんから福井さんの情報もふくんだ下記のメイルが届きました。

Dear Yabuki-san and Fushimi sensei,
Thanks for your help to figured out the location of recent flash flood in Barun Glacier area. Yes, we confirmed that the flash flood was not from Barun Glacier as mentioned by Fushimi-sensei.
I am also sending you a quick report sent by Prof. Fukui.
Regards,
Rijan

このメイルで、リジャンさんも、当初考えていたバルン氷河からの (flash flood)を否定するとともに、福井さんの(quick report)を送ってきてくれたので、それを見ると、福井さんも矢吹さんと同様に、矢印が示す写真2中央部の2地域でGLOFが起こった可能性を指摘しています。とすると、この地域のGLOFは、前述のグーグル・アース画像の画像取得日(2015/5/13)以前にもあったうえに、福井さんが指摘するように、さらに最近でも、発生している可能性があるのではなかろうか。さらに、2017年ネパール通信8で報告したように、今回の災害で「Millions property damaged due to GLOF, a way to Makalu destroyed.」のような被害が出ているとのことなので、災害現場がマカルー登山のベ-スキャンプである写真2の1地域近くである場合は、さらに上流での原因を考えねばなるまい。やはり、その時はフィールド調査が必要になるであろう。

最後に、コロラド大学のリジャンさんへは、次のような返事をしたところです。このメイルの主な点は、リジャンさんがアメリカ出張する前に、今回の災害は4月19日に起こったと言っていたが、福井さんは4月20日に発生したと報告しているので、重要な基本情報である災害発生日を確かめるためであるが、今のところリジャンさんからの返事は来ていない。

Dear Rijan Sama,
Thank you for a prompt reply with Fukui San’s report.
Fukui San reports it occurred on 20 April, but you told
us it happened on 19 April. Which is true?
Are you keeping a wonderful way of your life in Colorado?
We are now having an election holiday at our university.
“Good Luck and Namaste” to you from Hiroji Fushimi.
Cc. Yabuki San