12.テーチス海堆積物

Picture  ヒマラヤ山脈の主稜地帯からチベット高原にかけてはほとんど変成作用を受けない堆積岩が広く分布している。これがヒマラヤ山脈の多くの高峰の頂上にも見られるサンゴや海ユリなどの化石を豊富に含む古生代、中生代、新生代前期の堆積岩である。この堆積岩は中国南部、内陸アジア、中近東、地中海など諸地域に広がっていたテーチス海に堆積したもので、テーチス海堆積物と呼ばれている。新生代前期まで存在したテーチス海は貨幣石石灰岩が堆積したあと陸化し、さらに上昇を続け、チベット高原とその周辺部のヒマラヤ山脈などの高原地域となった。この地域が内陸アジア変動帯である。

  上昇する山脈は激しい侵食にさらされる。ヒンズー・クシュ-カラコルム-ヒマラヤ-アラカン・ヨマ山脈群へと続く4000キロメートル以上にもわたる台地から侵食され、それらの地域の周辺部に堆積した物質が第三紀の砂岩や礫岩(モラッセ層)となる。第三紀層の分布範囲を見るとパキスタンやインド東部に広く、ヒマラヤ山脈の南面ではその分布の幅が狭い。このことはヒマラヤ地域の上昇のプロセスと関連して興味あるところである。なぜならばヒマラヤ地域に見られる衝上運動によってこの第三紀層がヒマラヤ山脈の南面では覆われているため、その分布の幅が、見かけのうえで狭くなっているとも考えられるからである。また東ネパールのクンブ地域で見られるように、第三紀の花こう岩が、ヒマラヤ片麻岩とテーチス海堆積物の間を貫入している。この花こう岩の一部が、マカルーやマナスルなどの八千メートル峰を構成している。
第四紀層の分布はアラビア海やベンガル湾の海へ続くインダス平原とガンジス平原のほかに内陸アジアの砂漠と盆地に広く分布している。湖のたくさん見られるチベット高原上の第四紀層がヒマラヤ山脈などの氷河作用といかなる関係をもっているかはチベット高原とヒマラヤ山脈などの上昇とも結びつくことであり、今後の問題として残されている。なお、図2の地質図に見られるように、超塩基性岩類がほぼツァンポー河とインダス河などに沿って分布している。この超塩基性岩類は大規模な断層帯に沿う火成活動によって形成されたものと考えられ(文献10)、そしてこの超塩基性岩帯はヒマラヤ地域の北限を境する第一級の構造として重要である。この構造帯はヒマラヤ山脈とカラコルム山脈とを区分している。