Pocket

ネパール2014春調査報告12-調査のまとめと今後の計画―

写真1 ポカラから見た朝日で光輝くヒマラヤ上空の彩雲と、マナスル三山の逆光のシルエット
   まずは、今回の「ネパール2014春調査」の基地となったポカラを去る6月初めに見た朝日で光輝くヒマラヤ上空の彩雲と、マナスル三山の逆光のシルエット(写真1)をご覧ください(資料1)。マナスル峰頂上は左端の前山に隠されて見えにくいかもしれません(黄色の点線の中)が、中央のP29峰、そして右のヒマルチュリ峰の山容がくっきりと浮かび上がっていました。この彩雲の光景は、2010年6月初めにポカラの国際山岳博物館のJICAボランティアの仕事を終えた時にも見ることができましたし、マナスル峰とP29峰の手前直下に2008年以来毎年調査しているツラギ氷河湖があるのですから、ぼくにとってはひとしお懐かしい6月初めのヒマラヤの光景です。モンスーンの雨期直前にはこのような彩雲がヒマラヤで見られるのかもしれません。
さて、「ネパール2014春調査」を終了し、予定通り6月16日に帰国しましたので、今回の調査結果の概要と今後の計画を報告します。当初の目的は、(1)ヒマラヤ氷河湖調査、(2)国際山岳博物館の展示更新、(3)ヒマラヤ写真データベースの整備と(4)東南アジア巡見で、下記の通りほぼ当初の目的を達成するとともに、いくつかのプラス・アルファーをくわえることができました。
プラス・アルファーとしては、当初の予定になかった国際総合山岳地域開発センター(ICIMOD)の会議への参加ですが、これはカトマンズのICIMODに勤める友人のムールさんとバジラチャリャさんから参加をすすめられ、下記(1)のヒマラヤ氷河湖調査の結果をもとに発表したものです。最初の話ではポスター・セッションへの参加だけでしたが、当日になって口頭発表もさせられました。そして口頭発表後に、その会議に参加していた友人のカトマンズ大学(KU)のリジャン・カヤスタさんからは「半年ぐらい講義をしに来ないか」と誘われたことがきっかけで、来春彼の大学で講義をするとともに、学生たちとはフィールドでも議論することができるのを楽しみにしているところです。これらのプラス・アルファーの予期せぬ出来事から「持つべきものは友人」との感をいっそう深くするとともに、友人たちに感謝の念をささげたい(資料2)と思っています。

1.氷河湖調査

写真2 ツラギ氷河湖の末端モレーンの流出口の浸食地形

ネパール中央部のマナスル峰西側のツラギ氷河湖の調査を予定通り終了しました(資料3)が、連日夕方から夜にかけてアラレの後に雪が降り、かなり厳しい踏査行でした。このときには、エベレストで16名のシェルパニ人たちが雪崩で死亡すると言う災害がおこっていました。ただツラギ氷河湖では、調査を行った日中だけは曇りとはいえ、雪がさほど降らなかったのは幸いだった、と思います。
ツラギ氷河湖を堰きとめているモレーン末端部が30mほど浸食されており、そこが氷河湖から河川への流出口になっています(写真2)。このようなモレーン地形はクンブ地域の氷河変動との対比から18世紀に形成されたものと解釈できますので、モレーンが形成されてから300年ほどの間に流出口の位置が浸食で30mほど低下し、つまり平均的には1年あたり10cmほど浸食が進み、それにつれて氷河湖面の水位が永年的に低下してきたことを示しています。
ツラギ氷河湖・氷河末端の最近の変動については、2年前の2012年の末端位置と今回の2014年春ではほとんど変化は見られませんでした。そのため、ツラギ氷河は2010年ごろから末端位置の変化がなくなり、氷河底が湖底に座礁し、2009年のような氷河末端崩壊(カービング)がなくなり、氷河は動きを止めています。
ツラギ氷河の末端位置の変化がなく、流出口の浸食による水位低下が進行すれば、氷河湖の面積は減少の一途をたどるとともに、氷河湖底での堆積作用を考えると、氷河湖の体積は減少することになります。つまり、人間が手を加えなくても、氷河自体が氷河湖決壊洪水(GLOF)のリスクを少なくする氷河湖の水位低下を永年的にひきおこしていると考え、ツラギ氷河湖はGLOF発生の可能性が低いことを次のICIMOD会議で発表しました。資料3
2014年春ネパール調査(4) ツラギ


2.ICIMOD会議

写真3 ICIMOD会議終了後のスナップ(中央の白いズボンの人がコンビーナーのバジラチャリャ氏)

5月13日~16日までの4日間の会議中は午前9時~午後5時までICIMODのカンチェンジュンガ会議室で缶詰状態になり、100名ほどの出席者(写真3)から50ほどの報告を聞く、かなり忙しい日々を過ごしました。
会議の第1印象は衛星画像解析やモデリングなどのデスク・ワークの研究報告が多く、フィールド調査の研究成果が少なかったことです。広域的なデータをまとめるには前者の研究は欠かせませんが、グランド・トゥルースとしての後者の研究がないと、前者は砂上の楼閣になってしまう可能性があります(資料4)。
そんな中で、友人であるカトマンズ大学のリジャン・カヤスタ教室の学生たちが、われわれの仲間が1970年代に調査していたダウラギリ峰北部にあるリッカサンバ氷河や1980年代のランタン地域にあるヤラ氷河の現地調査を続けている報告を聞き、なつかしいと同時に、大いに頼もしく感じました。
上記のツラギ氷河湖やクンブ地域の調査結果から、小さい氷河湖が危険で、ツラギ氷河湖のような大きな氷河湖は比較的安全であることから、大きな氷河湖であるイムジャ氷河湖でUNDPなどが人工的な水路建設のプロジェクトを進めているのは再検討した方が良い」と発表した(資料5)ところ、そのプロジェクトの関係者から反論を受けましたが、よくよく聞いてみると、イムジャ氷河湖の水路建設のプロジェクトは最初に予算ありきのプロジェクトで、日本でもよく問題のなるような政治的判断でプロジェクトを決定したとのことでした。しかし、今回指摘した危険な小さな氷河湖であるホング・コーラ沿いのチャムラン峰周辺の小さな氷河湖の現地調査をICIMODがさっそくとりあげてくれ、今年中には現地調査を実施するとのことで、心強く思ったしだいです。資料4
ネパール2014春調査報告 8 -ICIMOD会議-資料5
Why is a large glacial lake safe against GLOF ( Glacial Lake Outburst Flood ) ?


3.国際山岳博物館の展示更新

写真4 国際山岳博物館をの展示コーナー(パノラマ)

写真4 国際山岳博物館をの展示コーナー(パノラマ)

   国際山岳博物館に掲示していた展示写真が色落ちしたり、見学者の引っかき傷の影響で醜くなっていたので、今回は印刷をし直し、色落ちを防ぐとともに、手などでふれても、画像に傷がつきにくいラミネートで加工した展示ポスター(写真4)で更新しました。その内容は下記の通りです(資料6)。

<温暖化とGLOF>
氷河湖決壊洪水
なぜ、ネパールの大規模氷河湖は決壊しないのか
マディ川氷河湖洪水
2012年セティ川洪水
<マチャプチャリ研究>
大気汚染と視程(Air Pollution and Visibility)
雪型(Snow  Shape)
雲の形成(Cloud Formation)
<エコ・ツアー>
ポカラのグランドキャニオン(Grand Canyon of Pokhara)
ダンプス(Dhampus)
ツラギ氷河湖(Tulagi Glacier Lake)
イムジャ氷河湖(Imja Glacier Lake)
ギャジョ氷河(Gyajo Glacier)
アンナプルナ・ベース・キャンプ(Annapurna Base Camp)
プーン・ヒル(Poon Hill)
<グーグル衛星画像解析>
カトマンズの住宅開発と地滑り
地球の最高地点
<その他>
ナムチェ・バザールの変化
アンデスの山岳信仰資料6
ネパール2014春調査報告9  IMM(国際山岳博物館)展示更新

4.ポカラ周辺のフィールドワーク

ポカラ北方のセティ川流域(写真5)

ポカラ北方のセティ川流域(写真5)で、ディプランの温泉が2年前の大洪水で壊滅的被害をこうむりましたので、その復興の現状を見届けるとともに、その近くで起こっている陥没地形を調査しました(資料7)。両地域に共通するのは、東西・南北性の断層群が分布していることで、これらの断層沿いに地下水が浸み込めば、温泉や陥没地形が形成される可能性がある、と解釈できました。

資料7
ネパール2014春調査報告 5 -断層と水の挙動-


5.東南アジア・ベトナム巡検

写真6 かつてのベトナム軍がでそうな感じがしたメコン河最下流部のデルタ地帯の狭い水路。

メコン河発祥の地であるチベット東南部を1980年と1987年に旅行し、またメコン河中流部のラオスを2013年に滞在しました(資料8)ので、今回の「ネパール2014春調査」の番外編として、帰路クアランプールからホーチミン〈サイゴン〉を往復し、残された最下流部のデルタ地帯(写真6)を巡見し(資料9)、メコン川の最上流部と中・下流部を点と線で見てきましたが、そのスケールの大きさ、人々の多様性などを強く実感しました。。

 

 

 

 


6.写真データベースの整備

  「ネパール2014春調査」で撮影した写真は1万3千枚余りになりましたので、まず当面はその整理を行うとともに、データベース化(資料10)にむけて、各写真のキーワード付けなどを進めていきます。

資料10
画像データベース (ピカサ・ウェッブ・アルバム)
https://plus.google.com/photos/115786369284765082831/albums?banner=pwa

7.今後の計画

Picture

写真7 カトマンズ大学ヒマラヤ氷雪圏・気候・災害研究センターのリジャン・カヤスタさん(右)のスタッフ。

Picture

写真8 カトマンズ大学ヒマラヤ氷雪圏・気候・災害研究センターの学生たち(中央がソナム・プティさん)
   リジャン・カヤスタさんからは「半年ぐらい講義をしに来ないか」と誘ってくれました(資料10)ので、カトマンズ盆地の東端にある丘の上に建てられたカト マンズ大学(KU)のヒマラヤ氷雪圏・気候・災害研究センターを訪ねました(写真7)。天気の良い日にはヒマラヤが見えるという緑の多いキャンパスでの講 義以外にも、ぼくとしては、学生たちと一緒に氷河調査をしながらフィールドで議論をしたり、これまで整備してきたデータベースのキーワードなどが日本語で すので、日本人以外の人に使ってもらうためにも、データベースの英語化をそのような機会にしたいと思い、カトマンズ大学の講義の申し出を受けようと考えて いました。リジャン・バクタ・カヤスタさんからは、20115年2月1日~5月31日の4か月間に講義を行うことで、さっそく<I will consult our Dean of School of Science about your salary which can be given by KU. I hope KU can provide you as an expert allowance which will be enough for your stay in Nepal.(科学部長にKUが支払う給料について相談します。KUは専門家待遇の便宜をはかりますので、ネパール滞在には充分でしょう)>との連絡がき ました。カトマンズ大学での講義が実現すれば、来年はまた新たなヒマラヤでの経験ができることにくわえて、友人のハクパ・ギャルブさんが「彼女はシェルパ の氷河研究者第1号」と言うクンブ地域出身のソナム・プティさんをはじめとする学生たち(写真8)のこれからの成長を大いに楽しみにしているところです。 この経験を通じて、これまで多くのネパールの友人たちからお世話いただいてきたことに対する恩返しができれば、と思っています。
資料10
リジャン・バクタ・カヤスタさん
ネパール2014春調査報告11 お世話になった現地の人々