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2017年ネパール通信18  余話5
ヒマラヤ展望率

1)ヒマラヤ展望率

写真1  逆光の日の出に浮かび上がるガウリシャンカール峰(写真9の#045;2017/04/24 at 06:01撮影)

カトマンズ大学の宿舎からヒマラヤ連峰のガウリシャンカール峰(7134m)が見える割合をヒマラヤ展望率と呼ぶ(*1)こととし、2017年の写真データベース2752枚(*2)の中で毎朝撮っていた写真112枚を選び(写真1、2、5-12)、2015年と2016年春の同時期のヒマラヤ展望率とを比較した。
(*1)ヒマラヤ展望率
2016年ネパール通信7  最終講義の報告
https://glacierworld.net/travel/nepal-travel/nepal2016/nepal2016_08final-from-ku/
(*2)2017Nepal
https://glacierworld.net/gallery/Nepal_B/2017Nepal/index.html
大学宿舎のベランダからは、晴れれば、北のランタン地域東部のジュガール・ヒマラヤから東のクンブ地域南部のヌンブール峰までが見渡せ、その中央部にガウリシャンカール峰が望まれるのである。日が昇ると、上昇気流でスモッグが舞い上がり、ヒマラヤが見にくくなるので、日の出直前に写真を撮り、2枚をつなぎ合わせて、パノラマ写真(写真5,6)を作成した。
2015年の3月~5月の68日間でガウリシャンカールが見えた日は26日あったので、ヒマラヤ展望率は38%だったが、2016年の同時期の53日間で見えたのはわずかに4日間にすぎなかった。したがって、2016年のヒマラヤ展望率は8%と低かった。スモッグの影響を受けた2016年の大気汚染がいかにひどかったかを示している。このことは、ネパールにとって重要な観光資源であるヒマラヤを見ることができないことを示し、ネパールの将来の観光産業にとっても大きな課題になるであろう。

写真2 夕日に輝くガウリシャンカール峰(写真10の#073;2017/05/17 at 18;29撮影)

写真3 ポカラの国際山岳博物館から見る中央のアンナプルナ連峰、右にマナスル峰、左にダウラギリ峰を望む。

ポカラの楽しみは、晴れた日の早朝、まず8000m峰のアンナプルナⅠとダウラギリが朝日でモルゲン・ロート(朝の赤)に染まり、ついで、アンナプルナⅡやマチャプチャリなどの山々にも日の出の光がとどく変化を見ることである(写真3)。これらの荘厳で勇壮な景観を見ていると、ネパールに来たことを実感する。だが、このような素晴らしい光景に恵まれる機会は実は少ない。2017年は4月30日にポカラに到着し、5月7日のカトマンズへ向かうまでの7日間でヒマラヤが見えたのは5月2日と5月5日の早朝のみであった。また、かつて国際山岳博物館に勤めていた2009年3月から1年間、毎週1回早朝のアンナプルナ連峰の展望の変化をまとめてみる*と、雲の少ない早朝でも、アンナプルナ連峰が一望に見渡せる日は1年のうちでも10週程度と非常に少ないことが分かった。とくに展望が良いのは、雨期明けの10月中旬や冬期の風の強い日に限られる。以上のように、ポカラにきてアンナプルナ連峰が見渡せる確率を展望率とすれば、2割程度なので、従ってマチャプチャリを眺めることができた人は幸運である、といえだろう。
*Holly Mountain
https://glacierworld.net/regional-resarch/himalaya/machapuchare/machapuchare01/

写真4 アンナプルナ連峰の中央に鎮座するマチャプチャリ峰、左に Ⅰ 峰、右に Ⅱ 峰を望む。

大気汚染が年々ひどくなるネパールは、視程(Visibility)が悪くなり*、カトマンズのようにヒマラヤが見えなくなることで、貴重な観光資源を失っていることを指摘しておく。ポカラで望まれるマチャプチャリ峰を中央にいだくアンナプルナ連峰はまさに神々の座にふさわしいヒマラヤそのもの(写真4)で、カトマンズの二の舞いになってほしくない、強く思う。
*Visibility and Air Pollution
https://glacierworld.net/regional-resarch/himalaya/machapuchare/machapuchare02/

写真5  大学宿舎のベランダから望む日の出直前のヒマラヤ

2)2017年春のヒマラヤ展望率

はたして、2017年の春のヒマラヤ展望率はどうだったか。
大学宿舎のベランダから望む日の出直前のガウリシャンカール峰周辺のヒマラヤのパノラマ的景観を写真5と6に示す。


写真6  大学宿舎のベランダから望む日の出直前のガウリシャンカール峰周辺のヒマラヤ

写真7 ヒマラヤ展望率01(2017/03/15 at 06:37)-(2017/04/09 at 05:47)

3月15日から4月9日の間(写真7)で、ガウリシャンカール峰を見ることができたのは4月8日と9日の朝焼け時の2日間(写真7の#015、019)だけで、4月13日と4月22日の間(写真8)では雲やスモッグでガウリシャンカール峰を見ることはできなかった。

写真8 ヒマラヤ展望率02(2017/04/13 at 06:01)-(2017/04/22 at 06:21)

写真9 ヒマラヤ展望率03(2017/04/23 at 05:49)-(2017/05/11 at 08:05)

4月23日から5月11日の間(写真9)でガウリシャンカール 峰が見えたのは4月24日と4月26日の朝焼け時の2日間(写真9の#045、051)で、5月12日から19日の間(写真10)では5月17日の夕焼け時(写真10の#073)と5月18日の朝焼け時(写真10の#077)にガウリシャンカール峰を見ることができた。

写真10 ヒマラヤ展望率04(2017/05/12 at 05;36)-(2017/05/19 at 05:24)

写真11 ヒマラヤ展望率05(2017/05/19 at 05:25)-(2017/05/25 at 05:26)

5月19日と5月25日の間(写真11)でガウリシャンカール峰が見えたのは、 5月23日の朝焼け時(写真11の#091)だけで、5月24日や25日(写真11の#095、096、099、100)の陽の出時に逆光の山がシルエットに浮かび上がったが、ガウリシャンカール峰を見ることはできなかった。5月26日から5月31日の間(写真12)では、モンスーンの雨期が近くなったため雲が多く、ガウリシャンカール峰などのヒマラヤを見ることはできなかった。

写真12 ヒマラヤ展望率06(2017/05/26 at 05:20)-(2017/05/31 at 05:20)

3)まとめ

2017年3月9日から6月5日までのネパール滞在89日間で、カトマンズ大学の滞在期間が50日であったが、その期間で大学宿舎のベランダからガウリシャンカール峰が見えたのはわずか7日間だけであった。ヒマラヤ展望率に換算すると、14%である。ガウリシャンカール峰の見えるチャンスは1週間で1日ほどであった。春の前半はスモッグで、後半になると雨期に近づくので雲が多くなり、ガウリシャンカール峰をはじめとしたヒマラヤを見ることはかなわないのである。
ヒマラヤ展望率は、2015年の38%、2016年は8%でしたので、2017年の14%は去年に比べてはやや持ち直した、と言っていいものかどうか判断がつきかねている。しかしながら、1週間に1日しかガウリシャンカール峰などのヒマラヤを望むことができないということは、ネパールにとって重要な観光資源であるヒマラヤを見ることができないことを示し、ネパールの観光産業の将来にとって大きな影響をあたえるであろう。
ヒマラヤ展望率を低くする要因は雲とスモッグである。モンスーンの雨期近くの雲の発生は自然現象であるが、スモッグは人為的なので、ネパール国内の森林火災や野焼き、車の排気ガスなどの対策の他に、外国起源の大気汚染物質対策としては、インドやバングラデシュなどと協議していく必要があるであろう*。
*カトマンズからポカラへ-スモッグの原因ー
https://glacierworld.net/travel/nepal-travel/nepal2016/nepal2016_07smog/

補足
2015年はアラビア海からの水蒸気がインド方面にしばしば侵入し、西部ヒマラヤから中部ヒマラヤのネパールまでが雨や雪にみまわれ、大気中の汚れを落とし、ヒマラヤ展望率が高かったが、2016年はインド・ヒマラヤ周辺の乾燥状態が続き、大気汚染のスモッグが滞っているため、このスモッグの層のなかにあるカトマンズ 盆地などからはヒマラヤが見えなかったのである(*)。だが、スモッグの上限高度3000m以上に登れば、ヒマラヤが見えることになる。ちょうど悪天時の太陽も、雲の上に出 れば見えるのと似ていようか。
(*)2016年ネパール通信2
https://glacierworld.net/travel/nepal-travel/nepal2016/nepal2016_02himalayan-earthquake-museun/
ネパールでも春は作物を植える時期で、春先の雨は“マッカイ(とうもろこし)コ(の)パニ(あめ)”と言われ、歓迎されているが、去年は連日のように午後 の雷雨がつづき、地元の人々も困りはて、ヒマラヤの天気の異常さに気付き始めた時に、あの2015年ネパール地震が起こったのである*。里の雨は、山の雪で あるから、カトマンズ盆地の砂や粘土の湖成堆積物は水分を含み軟弱地盤化し、ランタン地域などのヒマラヤ山地は豪雪にみまわれていたところ、地震の揺れ で、カトマンズなどネパール中央部の建物は砂上の楼閣となり多くの人命を奪うことになったことにくわえ、ヒマラヤではランタン村やクンブ氷河のベースキャ ンプなどで雪崩が発生して大惨事を引き起こしたのである。
*2015年ネパール地震(1)
https://glacierworld.net/travel/nepal-travel/nepal2015/nepal2015_07earthquake/