2015年春ネパール調査(17)  帰国報告

お知らせ 

9月6日(日)に北海道大学山岳館で開かれる講演会*の要旨(案)を末尾に載せましたので、ご覧ください。
http://aach.ees.hokudai.ac.jp/xc/modules/Center/activity/lecture/8th.html

写真1 天気が良いと、マナスル(左)とガネッシュ(右)がカトマンズ大学から見渡せる。

はじめに

「ネパール2015年春」計画の主 な内容は、1)カトマンズ大学の講義と2)ポカラ国際山岳博物館の展示更新でしたが、2月24日~6月9日までの滞在期間中に開かれた国際氷河学会とネ パール地質学会のカトマンズ会議に参加するとともに、4月25日には「2015年ネパール地震」が発生し、カトマンズ大学が休校になりましたので、下 記の「ネパール2015年春」調査の報告資料がしめすように、地震関連の現地調査も行い、予定通り、6月10日に帰国しました。

「ネパール2015年春」調査の報告資料
(1)クアランプールからカトマンズへ;2015年2月25日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015_02_01_archive.html 

(2)「アジア高地の氷河に関する国際シンポジウム」はじまる;2015年3月3日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/03/2015.html 

(3)国際氷河会議の終了とカトマンズ大学の講義開始;2015年3月14日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/03/blog-post.html 

(4)カトマンズ大学にて;2015年4月1日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/04/blog-post.html 

(5)カトマンズ大学にて(2);2015年4月17日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/04/blog-post_17.html 

(6)2015年ネパール地震(1);2015年4月29日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/04/blog-post_29.html 

(7)2015年ネパール地震(2);2015年5月7日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/05/2015-2015.html 

(8)2015ネパール地震(3);2015年5月18日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/05/2015-2015_18.html 

(9)2015ネパール地震(4);2015年5月28日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/05/2015-2015_28.html 

(10)ポカラ報告;2015年6月1日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/06/2015.html 

(11)カトマンズ大学の講義報告;2015年6月3日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/06/2015_3.html 

(12)ランタン地域の雪崩災害等に関する情報交換の進展;2015年6月4日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/06/blog-post.html 

(13)2015ネパール地震(5);2015年6月7日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/06/2015-2015.html 

(14)お世話になった方々;2015年6月8日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/06/blog-post_8.html 

(15)KCHその後;2015年6月9日
http://hyougaosasoi.blogspot.jp/2015/06/2015-kch-kch-kch-kcl-kch-kch-kch-j.html
付属資料

カトマンズ大学の講義

カトマンズ大学の宿舎 (International Guest House)のベランダは北向きですので、晴れた日には、西は中央ネパール・ヒマラヤのマナスル峰(写真1)から東のクンブ地域のヌンブール峰まで見わた すことができ、ヒマラヤ好きにとっては申し分のない環境でした。しかも、3月~6月の滞在期間中、毎日カッコウが鳴いてくれましたし、朝日が背後から昇るバグマティ寺院(写真2)を4月6日には拝むこともできました。それに、カトマンズのような大気汚染は少なく、吹くのは爽やかな峠の風でした。来春、また行けるのを楽しみにしているところです。

写真2 カトマンズ大学の宿舎ベランダから毎日眺めていたバグマティ寺院。

写真3 国際氷河学会で発表したリジャンさん(右)の教室の修士学生ソナムさん(左)。

  講義開始直前の3月初めには、国際氷河学会がカトマンズで開かれ、地元のヒマラヤ研究機関(ICIMOD)およびカトマンズ大学のリジャンさんの研究室の学生たちも会議の運営に重要な役割を果たしました。東ネパールのクンブ地域クンデ村の女子学生ソナムさんは地元のイムジャ氷河湖の変動について発表しました(写真3)。

  カトマンズ大学の講義*は、毎週月・水・金の3日間で、各講義は2時間です。講義は、3月初めの最初の1週間は学生控え室でしましたが、それ以降、地震発生の4月下旬までは、画像が鮮明な大型の液晶テレビのあるビデオ・コンファレンス・ルームで行いました。学生たちは、留学生5人(パキスタン人3名、インド人2名)とネパール人5名の10人でした。パキスタンの学生にはギルギットやスカルドー、またネパール人には上記のクンデやナムチェバザール出身者がいて、自分たちのふる里の環境問題に関心が高いことを感じました。

*KATHMANDU UNIVERSITY LECTURE ―ENVIRONMENTAL CHANGES OF THE NEPAL HIMALAYA―

http://environmentalchangesofthenepalhimalaya.weebly.com/

写真4 カトマンズ大学の講義学生(左はリジャンさん)。

写真5 ネパール地質学会のポスター会場で(右から2人目がダンゴルさん、左は八木さん)。

4月初めにはネパール地質学会に参加しました(写真5)。学会を主催した責任者の一人がダンゴルさんで、4万ルピー(約4万八千円)の参加費用を半額にしていただきました。会議では、山形大学の八木さん知り合いになりました。八木さんはトンボ返りのように、5月末~6月初めのランタン村の雪崩調査にも来られましたので、ヘリコプター調査の打ち合わせの際、再び情報交換を進めることができました。

国際山岳博物館の展示更新  

写真6 国際山岳博物館の自然環境の展示場で(右上はマチャプチャり峰の雪型、左下は「2015年ネパール地震」の展示を見る左の博物館事務長のライさんら見学者たち)。

 

カトマンズ大学での講義とともにポカラの国際山岳博物館の展示更新が「ネ パール2015年春」計画の主な内容で、当初は講義が終了する6月初めの帰国直前を予定していましたが、4月25日に「2015年ネパール地震」が発生 し、大学が休校になりましたので、5月前半にポカラをバスで往復し、展示更新とともに、カトマンズ・ポカラ間の地震状況を観察しました。博物館の展示写真 は色落ちやキズが付いたりしますので、更新が欠かせないことに加えて、今回はヒマラヤの環境変動にも関係する「2015年ネパール地震」の展示も新たに加えました(写真6)。


「2015年ネパール地震」

  「2015年ネパール地震」に関しては、前述のようにカ トマンズ・ポカラ間の広域的観察を行うとともに、カトマンズ盆地内のカトマンズ・バクタプール・パタン・サンクーや大学のあるドゥリケル周辺、およびラン タン地域との中間のヌワコット周辺でも地震の被害調査を行ないました(写真7)。写真7の上はヌワコット地域の状況で、リク川沿いの河川堆積物上に建って いた石積みの壁の民家は壊滅状態(左)、ネパール人が愛着を持っているヌワコット王宮の建物もやや北西に傾き、このままではトリスリ川の谷に崩れる可能性 がある(右)、と思われました。
また、古い町並みが全滅した感のあるカトマンズ盆地東端 のサンクー(写真7の左下)では、修復作業にやっと入ったところで、男たちは疲れきった表情をしていましたが、女たちの顔には笑みがわずかに見られるのが 救いでした。カトマンズの街にはランドマークのビンセント・タワーはすでになく、古い建物が壊された中に、避難民のテント村が点在しています(写真7の右 下)。もう、そろそろ雨期が始まりますので、テント生活者たちの苦労が余計に忍ばれます。

写真7 「2015年ネパール地震」の影響は長期に及ぶであろう。

写真8 1970年代のカトマンズの街並み(田園風景の中に、ビンセント・タワーが見える)。

写真9 2015年の地震以後のカトマンズの街並み(ビンセント・タワーはなくなり、テント村ができる)。

写真10 貞兼さんとハクパさんの再会。

 1970年代からランタン村の支援を続けている貞兼さんと1970年代の氷河調査隊を助けてくれたハクパさんが再会しました。というのは、氷河調査隊の活動終了後、安成さんが中心になって集めたハクパさんの奨学金をカトマンズ・クラブ・ハウスでハクパさんに届けてくれたのが貞兼さんでした。35年ほど前のそのことを、やっと思い出したハクパさんと貞兼さんには笑顔が蘇りました(写真8)。

写真11 チャムラン峰周辺の小氷河湖(黄色の点線内)の航空写真(GEN空撮資料)。

そこで、衛星画像解析のエキスパートの矢吹さんに次のような依頼のメイルを送りました。衛星画像にホング谷のGLOF現象が認められるかどうか、確かめてもらうためです。

 

 

 

 

 

 

 


伏見 碩二     2015/06/12
宛先: 矢吹裕伯 CC: 伏見碩二
矢吹さまーーー伏見です。
一昨日、予定通り帰国しました。今日も1つ、お願いがあります。
ハクパさんから先程「ホングでGLOF」のメイルが来ました(前述のハクパさんのメイルと写真9)。
そこで、お時間がありましたら、クンブの南東部のホング谷を見て欲しいのです。
ポイントは、GLOFの谷は侵食で衛星画像に白い線で写っています(写真10)。
写真10は次のGLOFはホング谷のMt. Chamlang周辺の氷河湖(黄色点線内)
におこることを予測した図ですが、はたしてそうなっているのか、ぜひチェック
して欲しいのです。お忙しいところ大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

はたして、GLOF発生の予測がうまくいくかどうか、楽しみにしているところです。いずれにしても、地震で不安定化した氷河湖上部の急斜面の氷河や雪面に雨期の降・積雪が重なり、さらに不安定化すると、雪崩発生の可能性は高まる、と解釈できます。ネパール・ヒマラヤのGLOF災害にとっては、今年の夏の雨期(ヒマラヤの山は降・積雪期)が重要なターニングポイントになるでしょう。

そこで、衛星画像解析のエキスパートの矢吹さんに次のような依頼のメイルを送りました。衛星画像にホング谷のGLOF現象が認められるかどうか、確かめてもらうためです。
伏見 碩二     2015/06/12
宛先: 矢吹裕伯 CC: 伏見碩二
矢吹さまーーー伏見です。
一昨日、予定通り帰国しました。今日も1つ、お願いがあります。
ハクパさんから先程「ホングでGLOF」のメイルが来ました(前述のハクパさんのメイルと写真9)。
そこで、お時間がありましたら、クンブの南東部のホング谷を見て欲しいのです。
ポイントは、GLOFの谷は侵食で衛星画像に白い線で写っています(写真10)。
写真10は次のGLOFはホング谷のMt. Chamlang周辺の氷河湖(黄色点線内)
におこることを予測した図ですが、はたしてそうなっているのか、ぜひチェック
して欲しいのです。お忙しいところ大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

早速、矢吹さんからクンブ地域の衛星画像が送られてきました(写真12)。今回のGLOF発生の前日の6月10日の画像ですので、GLOFの発生の証拠は認められませんが、GLOF発生の6月11日以降の画像と比較する基礎情報になります。次の画像取得日は6月25日とのことですので、待ち遠しい感じです。なお、写真12の黄色い点線内のチャムラン峰周辺の2つの氷河湖が、写真11の氷河湖と同じで、GLOF発生の可能性が高いとみて注目しています。また、前述の5月25日にイムジャ氷河湖北のローツェ氷河からの出水の起源は赤色点線内のデブカバーの化石氷体にある池だと解釈しています。また、矢吹さんへのメイルで書いた「ポイントは、GLOFの谷は侵食で衛星画像に白い線で写っています」というのは、GLOFの侵食作用でできたアマダブラム峰南のミンボー谷のガレ場が連続し、谷筋地形が白く写っている(薄緑の点線内)ことを指しています。


写真12 矢吹さんから送られてきた東ネパール・クンブ地域の6月10日のランドサット画像。

  はたして、以前にたてたGLOF発生の予測が的を得ているかどうか、楽しみにしているところです。いずれにしましても、地震で不安定化した氷河湖上部の急斜面の氷河や雪面に雨期の降・積雪が重なり、さらに不安定化すると、雪崩発生の可能性はさらに高まる、と解釈できます。ネパール・ヒマラヤのGLOF災害にとっては、今年の夏の雨期(ヒマラヤの山は降・積雪期)が重要なターニングポイントになるでしょう。

今後の予定

さて、今後の予定ですが、6月17日~19日は3回目の心臓手術で入院し、6月21日の木崎さんの卒寿の東京での会には参加したいのですが、術後の体調次第です。6月27日の北大山岳部の同窓会と7月5日の日本ネパール協会関西支部の集まりで「2015年ネパール地震」について報告することになっています。さらに7月18日にはランタン村の雪崩災害関連の研究会が東京であります。また9月初めには、北海道の日高山脈で遭難した友人たちの50年忌の集会の際には北海道大学山岳館で講演会(末尾参照)があるなど、いろいろと忙しいスケジュールになりそうですが、来春のカトマンズ大学の再講義にむけて、体調管理には十分努めていきたいと思っているところです。
それでは、皆さまもご自愛ください。