ヒマラヤ・フィールド報告-セティ川洪水とマディ川氷河湖決壊洪水の原因-

2) セティ川洪水

   セティ川洪水の5月5日の発生当初は泥流状態で、その後も継続的に、少なくともセティ川現地調査の5月15日までは褐色の泥質の流れが続き、従来のいわゆるグレーシャー・ミルクの流況を取り戻すことはなかったことが、この洪水の基本的な性格を物語っている。

調査1日目と2日目の調査で、セティ川の左岸沿いに、Santal村周辺まで到達した(写真3と写真4)。温泉で有名なDhiprang村はじめ、セティ川沿いの村々は泥質の洪水流でうずめつくされ、外国人旅行者1人を含む13人が死亡、50(ロシア人3人含む)以上が行方不明と報告さている(資料5)。セティ川の現地調査は、地図上の最上流のJimerbari村が望まれるSantal村までで、そこより上流は谷が狭まり、さかのぼることはできなかったが、セティ川洪水の発生地点はさらにJimerbari村よりも上流部であることは少なくとも確認できた。到達地点のSantal村は、GPSによれば、北緯282341.25、東経835846.25、高度1501m。

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もともとセティ川は、ポカラの谷をかつて埋め尽くした石灰質に富む膨大な堆積物を供給した流域で、地質状況を反映したマチャプチャリやアンナプルナⅢ・Ⅳの峰々に囲まれた上流域には石灰質堆積物が分布するとみられる崩壊地形が各種衛星画像や地図などにみられている。

ポカラのプリチブ・ナラヤン・キャンパス地理学教室の方が撮影したヘリコプターによる空撮画像を検討すると、崩壊地形がつくるバッドランド地形の下部には水平からやや傾いた堆積層構造が読み取れる灰色の地層があり、その上部には黒褐色の地層を認めることができる。堆積構造が認められる灰色の地層は細粒の粘土質で湖成堆積物、また黒褐色の地層は細粒泥質のマトリックスで一部礫岩を含むのが読みとれるのでモレーン堆積物と思われる。

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アンナプルナⅣ峰西方の大規模な地滑り現象はまさにバッドランド上部の黒褐色の地層部分で起こっているので、この地層を押し出すとともに、融水や夕方から夜間の豪雨などによって、まずは上部の褐色泥質部分がより多く浸食されて流出してくれば、下流のポカラ周辺で観察された泥質の洪水流を説明できる、のではと解釈している。当初の泥質流は約10日ほど経つと、粘土質の濃い水流へと変化するのであったことから考えると、洪水後期には先のバッドランド地形下部の広大な粘土質部分が相対的により多く流出してきたため、と解釈できる。