2015年秋調査 (6)ネパール地質学会

(1)ネパール地質学会

 

写真1 ウプレティ前教授とのスナップ(ホテルYak&Yetiにて)

  ネパール地質学会が4月7日から9日にカトマンズで開かれました。会場は前回報告しました国際氷河学会と同じホテルYak&Yetiで、2会場に別れた発表とポスター・セッションがあり、参加者は200名ほどでした。まず最初に、トリブバン大学を退官されたウプレティ前教授(写真1)が総括的な報告を行い、ヒマラヤの地質研究に功績のあったヨーロッパのガンサー博士などとともに、日本の木崎博士グループの業績を高く評価していたことが印象的でした。

写真2 シワリーク(Chure)地域の環境改善担当のRameshore Khanalさんの発表

  会議の共通テーマは“Geosciemces in Sustainable Development: Challenges and Opportunities”で、このテーマに直接関係する発表としては”Reversing the Chure degradation: analysis of the issues and measures underway for correction” の題で、ネパール南部のシワリーク(Chure)地域の環境改善担当のRameshore Khanalさん(写真2)が報告しました。マラリア撲滅で移住者が増え、開拓による熱帯雨林消滅が危惧されるなか、侵食されやすい砂地の多いシワリーク地域の地形保全や環境保全のための農業や牧畜指導を住民と一緒になって総合的に行っているとのことでした。彼はもと大蔵省のセクレタリーをされていたそうですので、今後の指導力に期待されます。また、シッキムのVinod Tewariさんからは”Potential of geopark development in the Sikkim Himalaya, India: some suggestions”の題で、重要な地質フィールドの保全と博物館構想が報告されました。シッキムには古生代のゴンドワナ大陸の氷河遺跡や植物化石があるなど貴重な露頭を保全し、観光にも生かしていきたいとのことでした。

写真3 山形大学の八木浩司教授のポスター発表

さらに山形大学の八木浩司教授(写真3)は”Critical slope angle inducing landslides on dip slope by each geological type in central western part of the lower Nepal Himalaya”のポスター発表を行い、現地調査に基づく地滑り地形の詳細な地図に注目が集まっていました。八木教授によれば、衛星写真を解析する研究が増えているが、それでは実際の現象を見落としている可能性があるとの主張には賛同しました。というのは、ネパールの最近の五万分の一地形図でも、実際には氷河のないモレーンの谷に氷河があるように書かれている地域があるからです(写真4)。この地図を見ると、氷河中央部に沢山の大規模な氷河湖が分布する不自然な形態になっていますが、おそらく、航空写真に映った雪などの影響で氷河地域を拡大解釈したのでしょう。この地図の氷河分布は、あたかも16世紀の拡大期の氷河を見ているような感じです。ただ、氷河湖については正確に表現されているようですが、この五万分の一地形図はよく利用されているので、氷河地域での利用に当たっては注意が必要です。
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写真4 1963年のシュナイダー地図(左)のモレーンの谷「Hongu Valleyの字」の部分が1996年のネパール測量局の地図(右)では氷河域を示す水色の等高線で描かれている。

写真5 ポスター会場のスナップ(右から2人目がVishnu Dangol教授、左端が八木浩司教授)

  学会の責任者の1人であるVishnu Dangol教授(写真5)は、前便でお知らせしたように学会参加費を半額にしてくださった方ですが、教授からは会議後、次のようなメイルが送られてきました。
Dear Fushimi sensei
I express my heartfelt gratitude to you from the bottom of my heart for making the 7th Nepal Geological Congress a success. Your active participation and support was instrumental for us to organize the Congress.
Thanking you once again
Vishnu Dangol, Ph.D.
Convener, Seventh Nepal Geological Congress

   このネパール地質会議では下記の題で発表しましたので、その要旨を添付します。

題:Environmental changes of Nepal Himalaya in terms of GLOF phenomena
要旨 Due to the global warming, many glaciers are receding and glacial lakes are expanding and the Glacial Lake Outburst Floods (GLOF) have been occurring in Nepal Himalaya. For example, Mingbo GLOF in 1977 (Fushimi et al,1985), Lagmoche GLOF in 1985 and  Saboi GLOF in 1998 were occurred in the Khumbu region. All of the reported GLOFs occurred in the region are smaller glacial lakes which area are less than 1 km2.and no larger glacial lakes showed any GLOF.
The Tulagi glacial lake is located at the upper part of the Dana Khola in the west of Mt. Manaslu. The water level of Tulagi glacial lake has been lowered due to the outlet erosion at the end moraine since the 16th century glacial advance that indicates to lower the GLOF risk. At the same time, the lake level continuously lowers in recent years since 1990’s.
The end moraine structure of a large glacial lake is strong enough to prevent the occurrence of the GLOF that is completely different from a small glacial lake with steep cliff at the upper part of the lake producing avalanches directly dropping into the lake causing TSUNAMI to destroy the fragile ice-cored moraine. We must be very careful about the small glacial lakes developing in the Hong Khola around Mt. Chamlang which have steep cliff in the upper part of their accumulation area, so they must be taken to mitigate against GLOF. However, the large glacial lakes such as the Tulagi and the Imja are safe against the GLOF, as the ICIMOD (2011) reported “Imja Tso has less likelihood of outburst than Tulagi lake”.
References
Fushimi et al, 1985 Nepal case study: Catastrophic Flood. IAHS, 149, 125-130.ICIMOD  2011  Glacial Lakes and Glacial Lake Outburst Floods in Nepal. Kathmandu: ICIMOD.

2)カトマンズ大学の講義

写真6 干場悟さんの講義風景

 現在のところ当初の予定通り、月・水・金曜日の午前中2時間の講義(*1)で、全体の半分ほどを終えていますが、今回のネパール地質学会の期間中は、干場悟さんに講義をおこなっていただきました(写真6)。干場さんはコンピューター“IT”の専門家ですので、”How to get the skill of computing”(*2)のテーマで、学生が大いに興味をもっくれました。
(*1)http://environmentalchangesofthenepalhimalaya.weebly.com/
(*2)http://easymycomputer.weebly.com/


3)ネパール山岳協会とモンゴル山岳協会関係者

写真7 モンゴル山岳協会の歓迎会(ネパール帽子をかぶって中央で踊っている文化観光省次官のSuresh M. Shresthaさんと一緒の踊っている左の方がモンゴル山岳協会長のZaya Sanjaaさん)

 

  ネパール山岳協会副会長のサンタ・ラマさんは国際山岳博物館担当でもありますので、去年暮れにアジア山岳協会広島会議の時に東京で関係者が会い、博物館の課題について議論しました。今回もカトマンズで4月8日に会うと、バンダ(ゼネスト)も中止になったので、モンゴル山岳協会の方の歓迎会を行えるようになったとのこと、ついては参加しないかと誘われました。歓迎会場はネパール・レストランで、広島会議にも参加し、多少の日本語を話すモンゴル山岳協会長のザヤ・サンジャさんも踊りだすほどの楽しい会(写真7)になりました。


4)バンダ(ゼネスト)の影響

写真8 バンダ当日の旧王宮前の通りの車の状況

 ネパール新憲法の成立は、6年前にJICAのボラティアーとしてポからの国際山岳博物館に来て以来の課題になっていますが、今回も野党側が中心になって与党側へ圧力をかけるために、当初の予定では4月7日から3日間、産業活動停止(緊急車以外の車使用禁止)などのバンダをすることになっていましたが、前述のように、第1日目の夕方5時でバンダは終了しました。4月7日からはネパール地質会議が始まっていましたので、カトマンズ中央部のターメルにあるホテルから会場のホテルYak&Yetiまで20分ほど歩く途中で、バンダ前後の車の様子を観察しました。

写真9 バンダ終了後の旧王宮前の通りの車の状況

4月7日のバンダ当日は車はほとんどなく、もっぱら力車と自転車が我が物顔に走っていました(写真8)。バンダ中は車の排気ガスの影響がなくなりましたので、空気がきれいになり、マスクも必要ないほどでした。ところが、バンダが終了すると車がこぞって道路に出てくる(写真9)と、たちまち元の木阿弥で、空気が汚れ、マスクが必需品になりました。バンダは、産業活動にとっては打撃ですが、空気をきれいにする環境問題解決にとっては寄与していますので、車を禁止しなくとも、東京でやったような車の排ガス規制ができれば良いのだが、と思いました。といいますのは、ネパール地質会議が終了した4月9日にカトマンズ大学に戻る時、黒々としたすさまじい煙状の排気を出すトラック(写真10)の後ろを追従する羽目になったからです。そのため、していたマスクはたちまち黒くなってしまいました。トラックの直後を走っていたバイクの運転手が気の毒になるほどでした。

写真10 黒々としたすさまじい煙状の排気を出すトラック

5)ビスケット・ジャットラ祭り

写真11 バクタプールでビスケット・ジャットラ祭り。左下の日本の山車を引っ張る祭りのルーツかも。

  4月10日にリジャンさんの家のあるバクタプールでビスケット・ジャットラと呼ばれる山車を引っ張る祭り(写真11)が開かれました。名前のビスケットとは食べ物ではなく、ネパール語ですが、意味はりジャンさんもよくわからないとのことです。意味はともかく、幸運を呼ぶ祭りのようです。山車を綱で引っ張る様子が祇園祭や大津祭りなどとよく似ているので、日本の山車を引っ張る祭りのルーツかもしれません。


写真12 祭りを空から無人操縦の小型ヘリコプター(Drone)が撮影

その祭りを空から無人操縦の小型ヘリコプター(Drone)が撮影していました(写真12)が、さっそく「youtube」にでている画像(写真13)を見ると、(日本の首相官邸にも落ちたそうですが)このようなDroneによる撮影画像は氷河調査などでも有効ではないかと感じました。.

写真13  Droneの「youtube」画像


6)大学周辺の散歩コース

写真14 大学周辺の散歩コース(GPSの軌跡がそれぞれのコースを示す;ほぼ中央のKUがカトマンズ大学)

  ネパールの休日は土曜日ですが、それ以外にも4月14日は新年を迎える元旦でしたし、また4月17日は元首相が亡くなられたので休日になりました。このような休日の時には、大学周辺のハイキングを楽しんでいます(写真14)。カトマンズ大学(KU)を中心にして歩き回りましたので、東西南北ほぼ5キロ周辺の土地勘がつきました。大学が田園地帯にあることは前便でお知らせしましたが、周辺の山地はかなりの森林が残されており、のんびりと森林浴にひたれますし、4月はじめならシャクナゲを見ることもできます。森の中には祠や寺院がありますので、住民がお寺とともに森林も大切にしていることがわかります。大学周辺の森の伐採は禁止されているとのことですので、水資源の供給地としても森林は大切です。しかし、お寺の近くまでも道路をつけて観光地化し、大音量の音楽を流しているところがあるのにはがっかりもします。

写真15 ネパール歴2072年の年賀状

ところで、上記の新年元旦はネパール歴で2072年とのことで、ドゥリキヘルのバグマティ寺院背後からのぼる日の出の写真を使って、ネパールの友人たちには年賀状(写真15)を送りました。



7)これからの予定

5月3日から9日にポカラに行き、国際山岳博物館の展示更新をしますので、その期間の講義は、干場悟さんにしていただくことになっています。当初は5月末に講義を終了する計画でしたが、ポカラ行きが早くなりましたので、講義期間は1週間のび、6月5日まで行う予定です。