7.講義とクラブ活動
ここが、ぼくのいるところです。環境という名前が3つもつく。カンマで区切らなきゃ、よく分からないではないか。大講座は完全な誇大表示で、実態は完全小講座。その中でぼくは、琵琶湖の水資源問題の基礎となる水循環を中心に研究・教育をしているが、何をめざそうとしているのか。おりしも今年の春には、滋賀県立大学の初めての卒業生を送りだし、大学院生を迎える。この1年に担当した講義は、滋賀の自然史、自然環境学2、地学1、地学実験、環境地学、環境フィールドワーク1と3、自然環境実習1、自然環境特別実習、専門外書講義1と2、自然地理学、環境生態学演習、卒業研究と14科目もあるので、それなりに忙しい。北アルプス立山で行われた夏の自然環境特別実習では梅雨末期の集中豪雨に見舞われ、学生ともども貴重な経験を積むことができたのも、今となっては楽しい思い出である。講義の学生数は、滋賀の自然史の405名から環境地学の19名まで。毎回、書く能力を高めるレポートにくわえ(これは出席簿の変わりにもなる)、小人数の場合は発表する力を養う討論中心の講義も行なっている。レポートの採点ポイントは、どれだけ個性的に考えたかに重きをおく。「H2O2で書くように」と学生にいっているのは、過酸化水素ではなく、H20+Opinion=H2O2のことで、琵琶湖などの水に関係する環境課題の解決に向って、できるだけ学生自身の経験に基づいた個性的で多様な考えをだして欲しいからである。ただ、20名前後と学生数が少ない環境地学では、滋賀県の具体的な環境課題、例えば犬上川河川改修・水資源保全・湖岸生態系・ダム・空港問題などを取り上げ、小人数のグループで課題解決のための討論を行った後、口頭発表の経験を積むことにしている。そうすることによって、地学的な課題解決に関するレポートを書くことに加え、口頭で発表する力も備わってくればと願っているところである。また、関係するクラブ活動が、環境サークルK、フィールド・ワーク・クラブ、ジオ・サイエンス・クラブ、学園新聞部、グリーン・コンシューマー・サークル、民族音楽部と6つ。学生たちの活動に刺激をうけながら、「学生を育てるのではなく、学生が自分で育つ大学」をめざした場づくりをしたい、と考えている。そこでぼくは、できるだけ何もせずに、学生の自主判断に任せているが、最後の責任だけは取らねばなるまい、と覚悟している。山登りの好きなぼくにとって、山岳部のないのは少々残念だが、そのためリスクの少ないのを歓迎しているふしもあるのは、自分自身おもはゆいがぎりだ。高齢化現象の現われ、だろうか。
さて、ただ1つ、意に満たないのは、教育の籠にとじこめられているので、ぼく自身のフィールドの研究時間が少ないことである。籠の鳥の飛翔力が弱らぬうちに、魅力的なフィールドにむけて、時々は籠から飛びだすことも考えねばなるまい。と、この1年をふりかえって切に思う。「個性的になること」を学生に言っている手前、ぼく自身のフィールドで自分の個性にも磨きをかけねば、羊頭狗肉のそしりをまぬがれえないだろう。(1999年1月)