2.新生代後期の地球

  地球の海と陸の歴史を見ると中生代(2億3000万年~7000万年前)にほぼ赤道沿いに地球をとり巻くように分布していたテーチス海(古地中海)が新生代後期(約1500万年前)に始まったヒマラヤ地域などの上昇によって陸化した。アンモナイトなどのすんでいた温かいテーチス海は消滅し、引き続く上昇によって地球上の陸域の増大と海域の減少傾向が続いた。
  すでに新生代後期には南極大陸に氷床が発達し、南米大陸と南極半島の間のドレイク海峡の成立とともに南極のまわりをめぐる冷たい海流が形成された。この南極氷床は約400万年前に最大となり、その後も現在まで消えることなく存続したといわれている(文献1)。地球の誕生以来約45億年の歴史を見ると、何回も大規模に氷河が発達したことが報告されている(文献2)。少なくとも新生代後期から地球は新しい大規模な氷河の発達する時代になった。
新生代の第三紀(7000万年~約200万年前)まで続いていたといわれるヨーロッパの温暖期が寒冷期に変化した時をもって新生代の第四紀が始まる、と決められている。
一般には第四紀は氷河現象と関連づけられて氷河時代とか、また人類の誕生と結びつけられて人類の時代とも呼ばれている。ところが、第三紀にたとえヨーロッパが温かかったとしてもすでに南極氷床が形成されていたのであるから、グローバルな地球の歴史からいえば第四紀の始まりよりも前にすでに地球は新しい氷河の時代になっていた、といえる。
また人類の誕生に関する研究の発展はめざましく、東アフリカでのこれまでの調査とともに最近ではヒマラヤ地域周辺の新生代後期(800万~1000万年前)の地層からもサルとヒトを結ぶ化石が発見されており、人類の歴史が第四紀以前にさかのぼる、と報告されている(文献3)。
これらのことは、(そもそも第四紀の独立性を認めない考え方もあるのだが)第四紀を氷河の時代と定義するにしても、また人類の時代とするにしても、いずれにしても現在の約200万年の第四紀はもっと時間スケールが長くなってもよいことを示している。
ヒマラヤ地域の上昇と世界最高の山脈群の形成は地球が新しい氷河の時代を迎えた新生代後期に始まる。新世代後期から現在へと至る自然の大変化は、現在の地球の姿にはかりしれない影響を与えており、地球の歴史の中でも重要な出来事である、といえるだろう。ヒマラヤの自然史(注1)もその一環としてとらえることができる。
ヒマラヤ地域は上昇し続け、そしてヒマラヤ山脈が出現した。ヒマラヤ山脈やチベット高原などの内陸アジアの上昇した地形は対流圏の上部まで突き出した障害物となる。この上昇した山塊上に形成されるチベット高気圧はアジアのモンスーン気候や汎地球的な大気大循環に大きな影響を与える。
ヒマラヤ山脈は現在も上昇している。絶えず進行する地形変化と気候条件との相互作用が、人間をも含めた生物の環境の基本を作る。さらに地形変化が進むとそこにはローカルな気候条件が作り出され、土壌を作りかえ、生物の分布などにも影響を与える。そして、これらの相互作用が積み重なりその地域の自然に特有の歴史を作る。

チョモランマ(サガルマータ、エベレスト)山群。火の玉状の白い花崗岩の貫入岩体がチョモランマをもちあげる。