1.東ネパール・クンブ地域の調査-イムジャ氷河湖変動など-
東ネパール・クンブ地域の調査をおえ、昨日カトマンズにもどりました。10月中旬の大雪の影響もさることながら現地の社会環境の変化にも驚かされました。まずは冒頭の2枚のゴキョウの写真を見くらべてください(上写真)。40年前には何軒かの放牧小屋(カルカ)だけでした(上写真左)が、現在では狭いところに10軒ほどの2・3階建てのロッジが雪の中で密集していました(上写真右)。ここはかつて18世紀の氷河拡大期後の溢流水がモレーンを浸食してできた地形です。
それにしても、大雪の影響は大きく、標高4400m以上の各ロッジはあたかも冬のスキー場のようなたたずまいをしていました。そのため、当初予定していた5300mのギャジョ氷河や5800mのアンブラプツァ峠を越えてのホング谷への踏査旅行は中止しました。というのは、イムジャ氷河湖調査の時に経験したように、50cm以上の雪道では、荷物を持ったポーターには踏査は不可能と思われたからです。そこで、調査の目的を次のように変更しました。クンブ地域では、これまでのところミンボー、ラグモチェ、ヒンク谷の小さな氷河湖の決壊洪水(GLOF)が発生していますが、比較的大きなイムジャ、クンブ、ゴジュンバ各氷河および氷河上の湖沼の1970年代からの変化をあきらかにすることにしました。調査はグーグルアース地図のGPS軌跡をほぼ反時計回りに踏査し(下写真)しました。
それにしても、大雪の影響は大きく、標高4400m以上の各ロッジはあたかも冬のスキー場のようなたたずまいをしていました。そのため、当初予定していた5300mのギャジョ氷河や5800mのアンブラプツァ峠を越えてのホング谷への踏査旅行は中止しました。というのは、イムジャ氷河湖調査の時に経験したように、50cm以上の雪道では、荷物を持ったポーターには踏査は不可能と思われたからです。そこで、調査の目的を次のように変更しました。クンブ地域では、これまでのところミンボー、ラグモチェ、ヒンク谷の小さな氷河湖の決壊洪水(GLOF)が発生していますが、比較的大きなイムジャ、クンブ、ゴジュンバ各氷河および氷河上の湖沼の1970年代からの変化をあきらかにすることにしました。調査はグーグルアース地図のGPS軌跡をほぼ反時計回りに踏査し(下写真)しました。
氷河上で比較的安定した池や湖ができるのは、上流部の現在流動している活動氷体より下流部分です。大きな氷河の末端部は18世紀の化石氷体であることが多く、そこには透明度の高い小さな湖沼が分布します。氷河上の湖沼の変動で問題となるのは、上流の活動氷体と下流の化石氷体の間の停滞氷体です。イムジャとゴジュンバ氷河ではこの部分に大規模な湖沼ができ、GLOFが発生するのではないか、と危惧されています。今回の調査では、その点にも注目しています。ただその前に、なぜクンブ氷河の停滞氷体には大規模な湖沼ができないのかについてふれておきます。冬のクンブ氷河末端では融氷水の溢流がないのにもかかわらず、末端基部のトゥクラではクンブ氷河からかなりの水量が流出しているのは、クンブ氷河底からの排水機構があり、そのことによってクンブ氷河の停滞氷体部には融氷水が貯まらないものと解釈しています。
さて、まずはイムジャ氷河湖ですが、4年前に行った時にはかなり拡大しており、地元の方々は大いに心配をしていました(参考資料1)が、今回は水位低下で、氷河湖の規模が縮小していました(上写真)。ところが地元のディンボチェ村で聞きますと、2つの見方があるのです。住民の大方は、イムジャ氷河湖は縮小しているというのですが、村の代表のBさんは「依然として大きい」というのです。前便でお知らせしたようにUNDPやアメリカ山岳会の支援で、人工的な排水路を作る土木工事がおこなわれることを、彼は期待しているようです。住民の一人であるA氏は「かつてはアイランド・ピークBCにあったアブレーション・バレーの湖も枯れたんだから、タンボチェ・ラマ(僧侶)の祈りで、イムジャ氷河湖もなくなるとよい」と語っていました。
水位低下による氷河湖の規模縮小は、中央ネパールのマナスル峰西のツラギ氷河湖でもみられており(参考資料2)、氷河末端の流出口の浸食のため、流出口の位置が低下し、湖面低下・氷河湖縮小化をおこしているのです。ツラギ氷河湖のように、融雪氷増大で水位上昇によるGLOGリスクを低減させるように働く氷河湖自体の自律的調節機構とも解釈できるのではないでしょうか。イムジャ氷河湖でも、クンブ地域西のツォーロルパ氷河湖同様な人工的な排水路を建設する計画が進んでいますが、氷河湖自体の自律的な調節機構が有効に働くならば、やみくもに人工的に開発工事を誘致・推進するのは、自然破壊以外の何物でもないでしょう。氷河は自然の一部であり、その自然の巧みである自律的な調節機構に注目したい、と思います。
水位低下による氷河湖の規模縮小は、中央ネパールのマナスル峰西のツラギ氷河湖でもみられており(参考資料2)、氷河末端の流出口の浸食のため、流出口の位置が低下し、湖面低下・氷河湖縮小化をおこしているのです。ツラギ氷河湖のように、融雪氷増大で水位上昇によるGLOGリスクを低減させるように働く氷河湖自体の自律的調節機構とも解釈できるのではないでしょうか。イムジャ氷河湖でも、クンブ地域西のツォーロルパ氷河湖同様な人工的な排水路を建設する計画が進んでいますが、氷河湖自体の自律的な調節機構が有効に働くならば、やみくもに人工的に開発工事を誘致・推進するのは、自然破壊以外の何物でもないでしょう。氷河は自然の一部であり、その自然の巧みである自律的な調節機構に注目したい、と思います。
イムジャ・クンブ・ゴジュンバ各氷河に共通しているのは停滞氷体の表面低下にくわえて、停滞氷体の上流への拡大(氷河の活動末端の後退)で、クンブ氷河では40年前にくらべて、活動末端が約2kmも後退しています(上写真)。
最後にゴジュンバ氷河です。停滞氷河部分のゴキョウとタンナグ間の通路が変わるほど、氷河湖が拡大しています(上写真)が、右岸側の流出口を見るかぎり、末端モレーンの規模は雄大であるので、モレーン破壊によるGLOF発生のリスクは少ないと思われます。今回の踏査の結果からは、ゴジュンバ氷湖もツラギ氷河やイムジャ氷河と同様に、流出口の浸食による湖面低下・氷河湖縮小に向かうのではないでしょうか。
参考資料
1) イムジャ氷河湖関連報告 http://glacierworld.weebly.com/ ヒマラヤ>ECO TOUR>4.Imja Glacier Lake
2) なぜ、ネパールの大規模氷河湖は決壊しないのか http://hyougaosasoi.blogspot.jp/ ブログ アーカイブ 2013 5月
PS
今回の24日間のクンブ地域の踏査旅行で4千枚を超える写真を撮りました。それらの写真解析を進めながら、10月中旬の大雪による雪崩やかつてのハージュン基地の現況など、また明後日からのラオスの旅の印象も、折を新ためてまとめたいと考えています。