立山の浄土山北側の雪渓の経年変化

立山の浄土山北側(第1図の青点線地域)の雪渓規模の変化を調べています。そのために、雪渓規模が最小になる新雪前の9月下旬から10月初旬に、一ノ越の道標から定点写真(第2図)を撮り、雪渓の形を写真にプロットして、雪渓規模の経年変化を
まとめています。

その結果の一端は2017年10月6日のブログ(下記1)ですでに報告していますが、一ノ越からの定点写真の撮影にあたりましては、千寿ケ原の干場悟さんや室堂山荘の佐伯千尋さんにお世話になりましたので、感謝の意を表します。また、皆さまにお願いがあるのですが、立山の一ノ越に9月下旬から10月初旬に行かれる際は第2図の写真のように、一ノ越の道標が入るようにして(雪渓のある・なしにかかわらず)浄土山北面の写真を撮って、下記2の私のメイル・アドレスあてに送って頂ければ、貴重なデータになり、大いに助かりますので、よろしくお願いいたします。なお、立山の一ノ越へは室堂からの登山道が整備されていますし、立山の雄山へ登る人が利用する比較的歩きやすい道ですが、天候の急変もありますので、十分に気をつけて行かれるこ
とを希望します。

記1

2017年ネパール通信22  余話9写真データベースの整備と立山雪渓の変化2)浄土山北面の雪渓の変化
https://hyougaosasoi.blogspot.com/2017/10/blog-post.html

記2

fushimih@hotmail.co.jp

第1図 浄土山の雪渓の位置

第2図 一ノ越からの定点写真

     雪渓規模が比較的大きかった2006年8月24日の定点写真に、その後の雪渓規模をプロットしてみる(第3図)と、2014年8月29日の雪渓(赤い点線)は縮小し、10月10日(青い点線)の雪渓規模で初雪を迎えたと思われます。2017年10月4日の雪渓規模(緑の点線)は2014年10月10日のものよりはるかに大きかったことが分かります。これらの2006年や2014年と2017年の雪渓規模は大きかったので、初雪の時期にも雪渓が残り、越年していたと思われます。

第3図 雪渓規模の経年変化

第4図 2018年9月27日の定点写真

ところが、2018年9月27日(第4図)、2019年10月1日(第5図)および2020年10月6日(第6図)では、 2019年10月1日の写真中の白点線内のわずかな雪渓が見られるほかは雪渓はほとんど消滅しました。富山気象台の資料によりますと、2019年の立山の初冠雪日は10月22日ですので、第5図の写真が撮影された10月1日から初冠雪までの3週間でこの白点線内のわずかな雪渓は消滅したと考えられますので、最近の2018年~2020年の3年間は、浄土山北側の雪渓は消滅して初雪を迎えた(る)ことであろう、と思います。つまり、雪渓が越年することがなくなり、多年性雪渓が形成される可能性が乏しい時代になっています。

第5図 2019年10月1日の定点写真

第6図 2020年10月6日の 定点写真

雪渓の規模の変化は冬の雪の堆積量と夏の融解量の差し引き(質量収支)が大きく影響しますので、最近の数年間の雪渓が消滅している現象は、質量収支がゼロかマイナスになっていることを示しています。そのことを示すと考えられる資料があります。その1番目は、雪渓が解ける夏(6〜8月)平均気温偏差の経年変化(気象庁、文献1)を見ると、「様々な変動を繰り返しながら上昇しており、長期的には100年あたり1.14℃の割合で上昇しています。2020年夏の偏差は+0.96℃で、1898年の統計開始以降、5番目に高い値となりました」と報告されていますので、温暖化で雪渓の融解量が増大したことがまず影響しています。

また2番目として、富山県立山カルデラ砂防博物館の飯田肇さん(文献2)は、「近年は暖冬傾向で積雪が少なくなっている。立山・室堂の積雪量は現在4m程度で、多く感じられるかもしれないが、従来と比べて随分減った。このままいくと、春から夏にかけて水不足等の困ったことが起こるだろう」と報告しています。従って、冬の雪の堆積量である積雪の減少しているのに加えて、夏の雪渓の融解量が温暖化で増大していますので、浄土山の雪渓変化が示すように、雪渓の消滅現象が最近になって顕著に現れるようになってきていると思われます。その要因は、進行する地球温暖化の可能性があります。

上記の飯田さんが心配している「 水不足等の困ったことが起こる」のを防ぐためにも、世界中の人たちと協力して、地球温暖化の進行をくい止めることが重要です。雪渓の消滅を防ぐことができれば、人間のためだけでなく、山の動植物にとっても、貴重な水資源としての役割を果たすことができます。なによりも雪渓の白さは、高山植物の緑とあいまって、山の姿を美しくする大切な要素だと思うのは私一人だけではないでしょう。そのことが影響して、第4図~第6図の雪渓のない浄土山には山の美しさが乏しいのではないか、と思うのです。雪渓は、日本の高山にとって、重要な自然現象であるゆえんです。これからも、浄土山の雪渓変化に注目していこうと思っていますので、冒頭に述べました写真撮影の件、よろしくお願いいたします。

文献1
日本の夏(6〜8月)平均気温偏差の経年変化(1898〜2020年)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html
文献2
「知られざる立山の雪の世界―雪の壁から氷河まで―」富山県立山カルデラ砂防博物館学芸課長飯田肇氏2018年度第4回日本海学講座
http://www.nihonkaigaku.org/nihonkaigaku/img/●HP掲載用講義録.pdf